《Asu》スティーブ・ジョブズ考: キャノン電子 酒巻社長がジョブズから学んだもの「イノベーションのタイミング」|日経情報ストラテジー
アップルやネクストとの取引を通じてスティーブ・ジョブズと親交のあった、キャノン電子の酒巻久社長の記事を見つけました。
敏腕経営者として、多くの著書でも名前を知られている酒巻社長ですが、単なる取引相手というよりも、同じ世界で切磋琢磨する同志的な匂いを、文章やトピックスから感じることができます。
連載コーナーでもある、「マネジメントの風を読む 第4回 」から、印象的なトピックスの引用を交えて紹介します。
ジョブズ氏に学んだ「早すぎる技術」の見極め
アップルやネクスト・コンピューターとの取引を通じて、ジョブズ氏と知り合った。年齢差を越えた、燃えるような青春時代(?)のひとときを与えてくれたジョブズ氏を懐かしむことも多い。
アップルが競争力を維持している理由には、先駆的技術の開発、商品そのものの斬新なデザイン、最適な生産システムと販売システムなどが挙げられる。私が思うに、それらの全てをジョブズ氏が自分自身で考え、実行していたからこそ、後継機業に対して抜かりなく次の手を考えることができたのではないだろうか。そのために持てる天才的頭脳を休めることなく働かせたに違いない。
アップルの商品開発のことをよく、「垂直統合モデル」と呼びます。通常は製品開発の機能と組織の関係を、製品軸で統合することをいいます。ジョブズが活躍していたころのアップルは、組織だけではなく、そこにスティーブ・ジョブズという、1本の太い軸が通っていた。しかもアップルの製品群全てにおいて。
もう1つ感じるのは、ジョブズ氏はイノベーションの「タイミング」を計ることに長けていたということだ。かつて私がネクスト・コンピューターと仕事をしていた時、米ゴーのセールス・マーケティング部門のバイスプレジデントから連絡があり、「今夜会おう」と言われて出かけたことがあった。(中略)
今で言うタブレットPCの先駆的企業である。試作中のタブレットPCを見せて「一緒にやらないか」と言う。そこで、まずは誰にも言わず、個人的に参加協力していた。ところがある時、ジョブズ氏に「お前は俺に隠れて何をしているのだ」と言われた。ゴーの話をすると、「あーあれね」と言って、「やめておけ」の一言だった。「時代が早すぎる」というのが理由だ。
その後ゴーは、1990年代中頃に倒産した。ジョブズ氏の先を見る目のすごさに驚かされた。当時はプロセッサーのスピードが遅いうえに大変高価だった。後から考えると当たり前に思えるが、私は当時ゴーの製品に惚れ込んでしまっており、ジョブズ氏の一言がなければ、会社や友人たちに大きな損害を与えてしまっていたかもしれない。今思うと、ジョブズ氏にもっと感謝して、お礼をいうべきだったと思う。
すでにいろいろなところで論じられていることですが、アップル、そしてジョブズは常にイノベーティブな技術を新しく生み出してきたわけではありません。Macintoshのグラフィックユーザーインターフェイスにしても、元の技術はゼロックスで開発されていたもの。ただゼロックスは、コンピューター専業ではなかったということと、その当時まだ技術が追いついていないため、途中で製品化への道をやめていました。その技術を応用して、ジョブズはパーソナル・コンピュータという新しいジャンルの製品をこの世に生み出しました。
iPadもそうです。確かにタブレット型PCというのは、90年代後半にいくつか製品が発売されました。ただ、当時は普通のウィンドウズPCの画面をそのまま、感圧式のタッチパネルにしただけで、操作は基本的にスタイラスで行い、画面のインターフェイスも通常のウィンドウズ95のまま、というものでした。この頃、新しもの好きだった私の職場でも、1台試しに買って使ってみましたが、最初は面白がってタッチパネルをちょっとだけ使ってみましたが、すぐに使わなくなり、通常のノートPCとしての活用だけになってしまいました。
新しい技術だけを見て、それに飛びついて、「技術ありき」で新製品を作っても、それを取り巻く部品や素材の技術的進歩度合いや、それを動かすソフトウェア、CPUの速度のバランスが取れていないと、本当に使える製品にはなりません。
また、もっと重要かもしれないのが、その製品、またはライフスタイルをとりまくエコシステム。アップルは、iPodで普及させたiTunesを、単なるPCとの同期ソフトから、音楽を購入・管理できるものへと進化させ、そこでやっとiPhoneを投入してきました。その後もiOSはPCをほとんど使わないですむような形で進化し、そこに合わせてiPadを投入。iPodやiPhoneで積み上げてきたデータ資産がそのまま活用できますし、同じアップルIDを持っていれば、アプリも共通で利用できたりします。
こういったジョブズの「時代を見る目」について、このようなエピソードが紹介されていました。
先を見通す目はどうして養われたのか私にも分からないが、印象に残っているのが東京で食事に行った時のことだ。ジョブズ氏は菜食主義なので、愛宕神社の近くの精進料理屋で食事を共にする事が多かった。大豆を原料にした肉料理と間違えるような品が出てくると、「どうやって作るのか、色の材料は何か、形は型で作るのか?」としつこく聞いてくる。
いい加減に答えていると怒り出すことさえあった。彼は次の行動のヒントになることを探し続けていたので、正確な知識を得ようとしていたのだ。
ジョブズが生前、米スタンフォード大の卒業式で行ったスピーチでも話していたように、自分の興味をもったあらゆるものに対して貪欲に吸収することは、将来それがどのようなつながりを作って別の何かを生み出すのか、その時はわからないものです。
スタンフォード大のWebサイトの記事:’You’ve got to find what you love,’ Jobs says
http://news.stanford.edu/news/2005/june15/jobs-061505.html
himazu archive 2.0 : 日本語訳
https://sites.google.com/site/himazu/steve-jobs-speech
坂巻社長も最後にこのように述べられています。常に貪欲に、かつ純粋にいろいろなものに興味をもって、それを取り込むようにしていこうと思います。
これからの人はジョブズ氏に習い、知識に貪欲になり、あらゆる分野で高い正確な知識と知恵を身につけることが肝要だ。天国で新しいコンピューターのアイデア探しに勤しんでいることだろう。私はそう思いたい。
▼出典
日経情報ストラテジー 2013.4
『朝イチでメールは読むな!』(朝日新書)
『リーダーにとって大切なことは、すべて課長時代に学べる』(朝日新聞出版)など
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