《Asu》あなたはどうするのか? 解説から読み解く 『UNDER GROUND MARKET』藤井太洋

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Gene Mapper (ジーン・マッパー)で電子書籍界に旋風を巻き起こした、藤井太洋さんの2作目、UNDER GROUND MARKETを読みました。

今回は、Kindle whitepaperではなく、iPad miniを使って、朝と晩の通勤の電車の中で一気に読んでしまいました。 Gene Mapper のときも一度読み始めたら止まらなくなる、面白さとスピード感、そしてそこに垣間見える未来。本作でもさらに腕を上げて藤井太洋ワールドを楽しむことができました。

巻末には、朝日新聞社デジタル事業本部の林智彦さんによる解説があります。
「藤井太洋」の取扱説明書 とタイトルが付けられた解説は非常に秀逸で、解説だけでも読み応えのある内容です。

メインのストーリーや世界観については、他の人もたくさん書かれていると思いますので、今回はちょっと視点を変えて、解説から読み解く「UNDER GROUND MARKET」ということでいってみたいと思います。

ストーリー

「Gene Mapper」が今から25年後を舞台としていたのに対し、「UNDER GROUND MARKET」の背景は、今から約5年後の東京。「Web何でも屋」の三人の若者――主人公である巧と、恵、鎌田――が、ショッピングサイトの改修を請け負う場面から始まる。(中略)
「Web何でも屋」の3人は、ひょんなことから「アイペイペイ」を牛耳る中国系移民とのトラブルに直面し、「アイペイペイ」のアカウントを削除されそうになる。  ネット決済が暮らしの土台となっている社会では、アカウントの削除は生活手段の剥奪を意味する。巧たち3人は、乏しい手持ちの手段で、なんとかそれを逃れようとする。  そのために使われる個々の手法は、現代において可能なものとほとんど変わりない。PCやネットに詳しい者ならば、さほど意外には思わないだろう。しかし、そうしたテクノロジーを次から次へと繰り出し、肉体を使った物理的なアクションと重ねあわせ、スピーディーでサスペンスフルな展開を演出する手腕は「Gene Mapper」の終盤と同じく、鮮やかだ。

UNDER GROUND MARKETの世界観

本作のタイトルでもある、UNDER GROUND MARKET=地下経済について、主人公の巧の興味深いセリフがあります。

「(「アイペイペイ」に代表されるネット決済サービスが実現するのは)『地下経済』というヤツだ。政治家や評論家は、税金のかからない商取引がGDPの10%に達するとスペイン危機に匹敵する経済クライシスが起こるとか脅しているが、来年には15%にもなる消費税と源泉徴収票はジジイとおっさん共が使い切る。逃げ切りを決めたつもりのバブルやロスジェネと沈むより、地下経済をアテに海の向こうからやってくる移民と競い、共に生きる方がいい」

リアルマネーで取引が行われ、そこに税金という形で国家と結びついている通常の経済活動に対して、地下経済は国家主権を脅かすものとして以下のように表現されています。

金融機関ではなく、多数の国に分散設置された仮想サーバーを束ねて運用されているネット決済サービスは、その成り立ちから言っても、「領土、国民、主権」を3つの柱とする国民国家とは相性が悪い。
課税・規制しようとしても、どの国の制度を適用すればいいか、判然としないからだ。会社の本拠が置かれている場所なのか、サーバーの置き場所か、あるいは取引が成立した国なのか。(中略)
ネット決済はその簡易性、迅速性、低コスト性において既存金融機関と比較にならない優位性を持つから、取引の単位は極めて低額で、高頻度になる。そうなると徴税コストはますます無視できなくなる。
こうして、必然的に出現すると考えられるのが、「UNDER GROUND MARKET=地下経済」だ。 「地下経済」といっても、暴力団やマフィアが麻薬や密輸で稼ぐ、従来型のそれとはわけが違う。  スマートフォン、タブレットといったスマートデバイスや、それに伴走する形で発達してきたGPS・GISなど位置情報技術、高速で安価な無線通信など、モバイル・ネット社会の高度なインフラが出現させた、「国家のコントロール外」で営まれる経済活動のことだ。

なるほど。確かに経済活動そのものは、価値と価値との交換なので、国家通貨(いわゆるお金)でなくとも、現実の社会、暮らしの中で流通が可能で、ある程度の汎用性を兼ね備えたものであれば、アングラマネーでもよいという考え方はありうると思います。

最近のインターネット上の巨大なマーケットはそれを予想させます。
たとえば、Amazon。Amazonのポイントが他のマーケットや、リアル世界の商店や自販機などで、電子マネーという形で使えるようになった世界。Amazonはアメリカの企業ですが、その取引は広くグローバルに行われているわけで、そこに国家がどのような形で介在してくるのかという問題は、現状すでに出てきています。

藤井作品で描かれる「4つの溝」

3・11以降、日本社会は大きな「溝」に引き裂かれ、身動きが取れなくなっているとして、藤井作品ではこの「溝」が重要なモチーフになっている。

1つは、政治・経済的な意味の「逃げ切り組」とでも呼ぶべき勢力と、「逃げ切られる組」の勢力との間の「溝」である。  2つめは、焼け跡派世代、団塊世代、新人類世代、バブル世代、ロスジェネ、ゆとり世代、ポストゆとり世代といった、世代間の「溝」である。  3つめは、既得権を持つ者と、持たない者の間の「溝」である。  4つめは、科学技術(テクノロジー)に対して、極端にとらえる見方と、そうでない、冷静な見方との「溝」である。

この4つの溝は、複雑にからみあいながら、マグマのような負のようなエネルギーをためこみ、今の日本を息苦しくしている。  その一つの「結果」が、2012年衆議院選挙であったとも考えられる。  野田民主党政権への幻滅が、安倍自民党政権の誕生を呼び込んだ、と一般には指摘されるが、果たしてそれだけだろうか?  真の原因は、国家の力が潮が引くように弱まっている中で、4つの「溝」を乗り越えるような論理を、ビジョンを、政権が国民に示せなかったことにあるのかもしれない。

単純な勧善懲悪のストーリーだけでなく、このような現代日本社会のモチーフを盛り込むことで、痛快さの裏に深い洞察力を感じる作品に仕上がっていると感じます。

もう一度、「Gene Mapper」と「UNDER GROUND MARKET」を眺めてみる。  すると、読者はこの二つの作品が、前にまとめたような「溝」を乗り越える展望を得るために企図されたプロジェクトの一部であることを発見するだろう。

あなたはどうするのか?

そして最後に、藤井太洋の作品群への対峙のしかたについて、こう結ばれています。

あなたはこのプログラム「UNDER GROUND MARKET」の実行によって、

  • 日本社会に潜む4つの「溝」を覗いてしまった
  • 「溝」を増補する手段を知った

あなたはどうするのか? われわれと行動を共にするか。それとも?

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If the answer is ‘No,’ press Ctrl+C to abort this program.

Answer?:__________

▼藤井太洋作品
 

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